大判例

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高松高等裁判所 昭和32年(う)180号 判決

被告人が土佐電気鉄道株式会社の自動車運転者で、高知市と香美郡大栃間のバス運転に従事していたものであること、昭和三〇年八月一九日午後五時五分同市螢橋発の同会社所有高二―一四七七号バスに乗客約二〇名を乗車させ大栃に向い、電車軌道北側舗装車道中高速車道の省略中央を時速約二〇粁にて東進中同日午後五時二〇分頃同市本町三丁目高知郵便局前附近に差掛つた際当時諸官公署等の退庁時直後で右高速車道左側の緩速車道にはこれら退庁者等が自転車に乗車し二、三列に並んで間断なく東進していたこと、被告人は警音器を吹鳴しながら右自転車を追越しつつ進行中、同郵便局東側浜田家具店前附近で自転車に乗車して進行中の金子理喜馬(当時五四年)の自転車右側と被告人運転の前記バス左側が接触し同人は路上に転倒し、治療約七ケ月を要する第八胸椎圧迫骨折等の傷害を蒙つたことは何れも原判決掲記の証拠から肯認し得るところである。

そこで右傷害が被告人の過失に基因するか否かに付検討する。

先づ本件事故現場附近の道路は中央は電車の複線軌道があり、両側に車道、さらにその両側が歩道となつており、被告人の進行していた軌道北側の車道は歩道寄り巾員約二、五米はコンクリート舗装で、軌道寄りはアスフアルトで巾員約五、五米(車道巾員約八米)となつており交通取締上、一応右歩道寄りを緩速車道として自転車等を通行させ、他方は高速車道として自動車が通行するよう指導勧奨していたものであること、本件事故発生の直前は被告人は右高速車道の中央をやゝ右寄り(即ち軌道寄り)に東進していたこと、被害者は他の自転車と一団となつて緩速車道を一杯になり同様東進していたことが原審並びに当審検証調書、原審並びに当審証人藤原稔弘の供述記載から認められる。しかして本件事故発生直前の状況については、被告人の司法警察員並びに検察官に対する供述調書によれば被告人は高知郵便局前辺に差掛つた際左前方数米の処から約二〇米位迄の所を進行する自転車の一団を認めたので警音器を吹鳴し、右自転車群と約二米位の間隔を置いて追越すべく進行したこと、右一団を追越した直後車体左前部附近に接触音がした旨を述べており、一方被害者金子理喜馬は司法警察員並びに検察官に対する供述調書において右車道を進行中、後方から同じく自転車の者が自分を追越すべく左側に出てきたのでこれを先行さすべくハンドルを右に切り高速車道に少し入つたところ後方から来た自動車に接触した旨述べているところである。

しかして両者の接触の状況はバスの車体に残る自転車のタイヤの跡等により自転車はまずその前輪が自動車の乗降口直前の下端部に当り、ついでその衝撃で自動車に倒れかかり右側ハンドルが自動車出入口下方に接触したものと認められる。(当審証人橋田義徳の証人尋問調書)

さらに両名の接触地点は前記のように高速車道と緩速車道の境界線から高速車道に少くなくとも約一、六米入りこんだところであると認められ前記金子理喜馬の供述記載のようにハンドルを右にきり右距離だけ高速車道に入りバスの道路に侵入したことが認められる。以上のような接触状況であるが右被害者の自転車がハンドルを右にきつた際一旦被告人のバスの進路の前面に出たことについては記録を検討してもこれを確認する証拠は存しない。しからば右接触個所等から見て自動車の前部は一旦自転車を追越し併進の形となつた直後前記のような状況から被害者が右方に併進してきた被告人のバスに気付かず慢然ハンドルを右にきつたゝめ両者が接触し本件事故を惹起したものと推認することができる。或は両者の速度の相違から考え、両者の接触個所が前記のようになるには自転車がハンドルを右にきつた時一旦バスの進路前面に出たものであるとも考え得ないわけではないが自転車の進行の状況、追越直前の両者の距離の極めて近いこと、等を考えると、接触個所、速度の点から直ちに右のように断定することはできない。

事故発生の状況は以上のとおりであり、被告人の自転車を追越すまでの措置には、速度においても約二〇粁の低速であること、進行位置も高速車道の中央やゝ右よりであること、先行自転車には警音器を吹鳴して警告していること、自転車との間隔の点等、何等事故原因となるべき過失の責むべきものは認められず専ら追越後の自転車群の動向による被害者の自転車の操縦方法が前記のように本件事故の惹起の因をなしたものと認められる。もとより右接触個所附近における自転車の状況は運転者の席からバツクミラーにより認められるところであり、運転者として一般に側方に対する注意ももとより必要であるが右のような状況で追越した以上併進後の自転車の上記のような突発的な動向にまで備えて操縦すべき責任ありとすることは運転者に対し難きを強うるもので賛し得ない。

結局本件事故は被告人の過失に基くとの証拠は十分でなく、むしろ被害者の自転車運転上の不注意により惹起されたものと認める外はなく、被告人に過失ありと認定した原審判決は判決に影響することの明らかな事実の誤認があり破棄を免れない。論旨は理由がある。

(裁判長判事 玉置寛太夫 判事 谷弓雄 判事 合田得太郎)

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